『砂の女』は安部公房の代表的作品で、日本では広く知られるだけでなく、海外でも高い評価が得られている。

『箱男』は『砂の女』が発表されて十年後の安部公房の作品として、前の作品よりもっと成熟さが見られるが、終始作品のテーマは貫かれているようである。

本研究を始める前に、安部公房『砂の女』と『箱男』の先行研究を整理する必要がある。

幸田国広（2000）は『砂の女』について、主人公が日常からの脱出を求めてやってきた先で新たな閉塞状況(砂の穴)に陥ってしまうという矛盾を論述した。

溜水装置の発見は都市の自由あるいは新たな矛盾への道の象徴であり、日本未曾有の資本主義に突入しはじめた時代の人の欲望がまるで砂の穴に胚胎した欲望を指摘した。

中野和典（2013）も『砂の女』について、資本主義経済のもとでは不正常な自由が発展され、人々は孤独しながら外界を深く恐れているため、消極的な自由から逃げ出して新たな自由を求める主題を分析している。

小関有希（2007）は『砂の女』を「砂の世界」と「日常世界」と分けられていると分析している。

監視面から言えば、「日常世界」における不法監視と「砂の世界」における監視という二つの監視があるが、「砂の世界」において愛郷精神があるために罰せられないと指摘する。

また、小関有希は「砂の世界」から離れるという「第一の逃亡」と「砂の世界」への「第二の逃亡」の間に双方向の性質があると論じている。

というのは、「男」が「日常世界」の義務を離れるために、「砂の世界」に入ったが、「砂の世界」の生活に慣れたため、「日常生活」に戻りたくても戻れなくなったということである。